ぼくは思うところがあって、今年2020年1月1日の元日に「天国にいちばん近い島」(1984年)を観たんですね。
あらためて観ると今どきの映画とは違い、特に物語らしい物語がないことに驚かされます。
さすがに約36年も前の映画だから、当時はふつうだったのかもしれない描写の古めかしさや、技術的に劣るところには、観ている側のこっちが気恥ずかしさを覚えてしまいます。
それで、あぁ、やっぱり今、観直すと…と、ややガッカリするような思いにもかられるのですが、けれど途中から次第に面白くなってくるんです。
木の根っこを引っこ抜くという場面が、ひとつのクライマックスとして描かれるなんて、あり得ないような展開にすら納得ができるようになります。
作り手の故大林宣彦監督は、この映画は「ありがとう」についての映画だと解説をされていました。同監督によれば…、
「ありがとう」という言葉はひとつだけれど、ひとは成長して、大人になるにつれて、「ありがとう」には、いくつもの意味や想いがあることを知っていくんです。
何通りもの「ありがとう」を言えるようになることが、大人になるということなんです。
主人公の桂木万里は、彼女の「ありがとう」を見つけていきます。
…というわけです。「天国にいちばん近い島」を初めて観た時には、ぼくにはその監督の解説の意味がよく、わかりませんでした。
でも、「ありがとう」の映画なんだと、そう思いながら何年か置きに観ると、次第にわかってくるんです。
ぼくは今年の元日に観直してみて、最初は気恥ずかしかったのが、ラストシーンでは、あぁ、とても良い映画をお作りになられたなぁ…と感銘を覚えました。
物語らしい物語のない映画を作るというのは、なかなか出来ることではないと思います…。
ですから、ぼくは大林宣彦監督には、さようならという別れの言葉ではなく、「ありがとう」と言うべだきと思っています。
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